外で遊ばない?遊べない?現代の子どもたち

外遊びや運動遊びの機会が減少し、子どもたちが体を動かす時間が少なくなっている現状があります。今年5月に掲載した特集記事への反響を受け、その実態や背景にある要因を改めて調査いたしました。子どもたちにとって、どのような遊びが重要なのかについて、読者の皆さまと一緒に考えていきたいと思います。
(※2024年7月14日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

遊び場を求める子どもたちと体を動かす機会が減る現状とその悩み

「私道では怒鳴られ、公園ではボール遊びが禁止されている」──子どもを外で遊ばせる際に、肩身の狭さを感じているという埼玉県朝霞市に住む42歳の女性がいます。小学6年生と2年生の息子を持つこの母親は、子どもたちの遊び場所の制限に頭を悩ませているといいます。
長男は小学4年生までは放課後に毎日のように公園などで遊んでいましたが、5年生になると次第に外で遊ぶことが減りました。その理由の一つは、校庭以外でボール遊びができる場所が近くにないことです。
自宅のベランダにいた時、階下の住人から「うるさい、やめろ」と怒鳴る声が聞こえました。見ると、近くの私道で長男の同級生たちがバドミントンをしていたところでした。子どもたちは怒鳴り声を聞いてすぐに自宅に引き上げてしまいました。
ボール遊びができる公園までは自転車で片道15分以上かかり、平日に連れて行く余裕もありません。さらに、自宅近くの公園はどこもボール遊び禁止です。長男は「何でもダメでつまらない」と不満を漏らし、「ドッジボールやサッカーが思い切りできる場所が近くにほしい」と話しています。
長男の習い事は週1回のサッカースクールのみです。スポーツ少年団への参加も検討しましたが、夫(50歳)は配送会社の運転手で土日も不在が多く、母親一人でのサポートは負担が大きいため断念しました。
友達の中には、放課後に校庭でサッカーやバスケットボールを楽しむ子や、室内でゲームに夢中になる子もおり、はっきりと二手に分かれてしまっています。長男は外で体を動かすことが好きですが、校庭でサッカーをするグループには入りたくないといいます。なぜなら、ガキ大将的な同級生から「お前はずっとキーパーをやれ」などと言われるからです。さらに、放課後は塾で忙しい友達も多く、なかなか遊び相手が見つかりません。その結果、長男は絵を描いたり、キーボードを弾いたりして自宅で過ごすことが増え、遊ぶ場所も相手もなかなか見つからないのが現状です。

減少する子どもの運動時間、コロナ禍と学校現場の現状

<休み時間でも教室に、密集を避けて運動会は縮小>──学校でも子どもたちが自由に遊ぶことが難しい状況です。安全管理や教員の働き方改革、そして新型コロナウイルスの影響など、さまざまな理由で子どもたちの運動時間は減少していると、千葉県の公立小学校で長年校長を務めてきた60代の男性は語っています。
校長として、20分ほどの休み時間に子どもたちが外で遊ぶ機会を増やそうと試みましたが、実際には休み時間に教員は授業準備などで手一杯で、けが防止のために立ち会うことができません。その結果、児童たちは教室で過ごすというルールにせざるを得なかったそうです。
さらに、2020年以降は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、児童を密集させて遊ばせることが難しくなり、運動会も簡素化されました。「コロナ禍が収束しても運動会は縮小したままで行うのが一般的となり、学校で子どもたちが体を動かす時間は確実に減少しています」とその校長は話しています。

遊びの力が育む自己肯定感と非認知能力、内田伸子教授が語る子どもの成長

発達心理学を専門とする内田伸子・お茶の水女子大学名誉教授は、「様々なことに挑戦する力が育つべき時期に育ちにくくなっており、日本社会はどうなっていくのでしょうか」と、現状を憂慮されています。
内田さんは、外遊びを通して育まれる能力として「視力」「運動能力」「言葉の力」を挙げています。先行研究によると、外で遊ぶ時間が長い子どもは近視になるリスクが低いという報告があります。内田さんは、外で遠くを見たり手元を見比べたりすることによって、目のピントを調整する筋肉が鍛えられ、近視の抑制に繋がると説明しています。
また、外遊びは運動能力を育み、自分の体を自由にコントロールできるようになることで、自己肯定感が高まるとも述べられています。
言葉の力も、遊びを通じて培われます。たとえば、四季折々の自然に触れながら子どもたちが様々な言葉を使うことで、最初は「さわやかな風」のような言葉の意味がわからなくても、仲間と楽しく遊ぶ体験と結びつくことで、その言葉に対する感覚や理解が深まっていきます。
内田さんが特に強調されるのは「自発性」です。しつけの方法が「強制型」(命令や指示を与える)か、「共有型」(子どもと共に考える余地を持たせる)かによって、子どもの成長への影響が異なることを調査されました。共有型のしつけを受けた子どもは、自分で考え行動し、遊びに熱中する傾向があります。一方、強制型では指示を待ち、周囲の顔色をうかがいながら遊ぶようになるのです。「強制的な訓練や一斉指導では、子どもの運動能力は伸びず、運動嫌いになる子どもも増える」という研究報告もあります。
「遊びは子どもにとって自発的な活動であり、大脳が活発に働いている状態です。遊びを通してアクティブラーニングが行われているのです」と内田さんは語ります。内田さんと浜野隆さんによる6年間にわたる縦断追跡調査では、共有型のしつけや遊びを重視する保育で育った子どもは、読解力など3つの分野で高い成績を示したとのことです。さらに、絵本を読む経験が豊かで、造形遊びやブロック遊びが多い子どもも同様の傾向が見られました。
また、自発的な遊びを通じて、他者と関わる社会性や自制心、目標を達成する力、挑戦する力などの「非認知能力」も育まれます。そして、目標を達成した際の喜びや達成感が、楽しく学ぶ「楽習体験」となり、自己肯定感や探究心を高めるのです。

三つの『間』が不足する現代の子どもたち。前橋明教授が語る外遊びの重要性

任意団体「子どもの健全な成長のための外あそびを推進する会」の代表発起人であり、国際幼児体育学会長を務める早稲田大学の前橋明教授(69)に、現代の子どもたちの外遊びの状況についてお話を伺いました。
子どもたちの運動量は激減しています。5歳児の午前9時から午後4時までの歩数を調査したところ、1985~87年では約1万2千歩だったものが、1991~93年には7,800歩程度、そして1998年以降は約5千歩にまで減少しています。さらに、アンケート形式の調査によると、現在の子どもの平均外遊び時間は、幼児で約20分、小学校低学年で約30分、高学年でも約40分程度という結果が出ています。
今の子どもたちには、「空間」「時間」「仲間」という三つの「間」が不足しています。都市化や環境整備の不足により、安全に遊べる「空間」がなく、習い事などの影響で友達と遊ぶ「時間」も少なくなり、結果として「仲間」も集まりにくくなっています。
外遊びを通じて得られる体験は、子どもの内面的な成長に繋がり、自ら考え、学ぶ自立心を育みます。そのため、大人たちが子どもの外遊びを大切にするという共通の認識を持つことが大切です。地域における開かれた遊び場や居場所が不足する状況が続くと、家庭の経済格差が子どもの体験格差に繋がる恐れがあると、前橋教授は懸念を示しています。


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