「こども誰でも通園制度」月に10時間だけ?の諸事情
「改正子ども・子育て支援法」などが成立しました。児童手当をはじめとした拡充策が並ぶ一方で、「こども誰でも通園制度」は保育士不足の中で施行準備を迫られるなど課題も多くあります。財源確保をめぐって政府は実態とかけ離れた説明を続けていますが、将来的な負担への懸念も出ています。
(※2024年6月6日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
「こども誰でも通園制度」の課題と保育士不足への懸念
児童手当の大幅な拡充などの充実策は、野党からも一定の評価を得ています。児童手当は重要と指摘される現金給付ですが、さまざまな要因がある少子化問題では、唯一の解決策とはなりません。
今回、幅広い対策が並ぶ中で、児童手当拡充とともに主要施策に位置づけられたのが「こども誰でも通園制度」です。保護者が働いていなくても、一定時間まで保育所などを利用できる制度で、2026年度から全国の市町村で実施されます。
この制度は、生後6カ月から2歳の保育所などに通っていない未就園児が対象です。保育所などに通う機会を保障し、保育士ら専門職が関わることで、保護者の子育て負担や不安感の軽減を狙っています。
焦点は利用時間です。全国での展開時には「月10時間以上で内閣府令で定める時間」とされていますが、詳細は未定です。今年度に100以上の自治体が実施する試行的事業では、1人あたりの利用時間の上限を月10時間としています。
こうした事情から、「月10時間では利用時間が短すぎて継続的な見守りができない」といった懸念の声も上がっています。認定NPO法人「フローレンス」が昨年、全国の保育事業者を対象に調査したところ、子どもの育ちを考慮した預かり時間について、「週3日以上」「1日3時間以上」を望む声が多かったです。
保育士不足がもたらす「こども誰でも通園制度」の課題と懸念
政府関係者は「大幅な時間増は難しい」と話しています。その背景には深刻な保育士不足があります。
首都圏の自治体担当者は「どの園もぎりぎりの運営状況で常に求人が出ている。希望する未就園児をすべて受け入れるだけの環境整備が本当にできるのか」と述べています。
より手厚い支援が必要な子どもへの対策が十分かどうかの懸念も残ります。政府はひとり親世帯に支給される児童扶養手当を拡充しましたが、子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」の小河光治さんは「低所得層の子どもにもっと手厚い再分配をしなければ、さらに格差を広げかねない」と指摘しています。
ひとり親世帯の貧困対策と共働き推進への課題
厚生労働省によると、ひとり親世帯の貧困率は44.5%と高止まりしています。小河さんは、貧困が子どもの心身の健康や学習の習熟度に影響するため、児童扶養手当の給付額と所得上限のさらなる引き上げが急務だと訴えています。
成立した法には「共働き・共育て」の推進に向けた施策も含まれています。夫婦で出生後に14日以上の育休を取得した場合、給付額を手取りの8割相当から10割相当に引き上げるものです。
政府は男性の育休取得率の目標を「2030年度までに85%」としていますが、2022年度時点では17.13%にとどまっています。育児負担が女性に偏る現状を変革できるのか、政府の姿勢が問われています。
支援金「負担ゼロ」のはずが実態は徴収:財源確保の課題
支援金「負担ゼロ」のはずが徴収される事態について、与野党から疑問が呈されています。焦点は、財源の一つとして医療保険料とあわせて徴収する「支援金」でした。
政府は「実質負担ゼロ」というフレーズを強調しており、5月30日の参院内閣委員会でも岸田文雄首相は「歳出改革によって社会保障負担率の軽減効果を生じさせ、その範囲内で支援金を構築する。国民に新たな負担を求めない証しとして約束している」と説明しました。
政府は2028年度までに年3.6兆円規模の対策を実施し、その財源は社会保障の歳出改革(1.1兆円)と既定予算の活用(1.5兆円)、支援金(1兆円)でまかなうとしています。しかし、社会保障改革によって医療や介護の個人負担が増えても「負担」とはカウントされず、実態とかけ離れた説明に野党からの追及が強まりました。
政府は児童手当の拡充など給付の議論を先行させ、具体的な財源論は後回しにしました。また、「増税」の議論を封印し、徴収方法として医療保険に注目しました。これにより、高齢者も子育て世代の充実策に貢献することになり、自民党の衛藤晟一元少子化対策担当相は「医療保険を納めた方は目的外使用と思うだろう」と指摘し、5日の採決も棄権しました。
支援金は2026年度から段階的に徴収される予定で、政府の試算では、2028年度の医療保険加入者1人あたりの平均負担は月額450円とされています。しかし、これは子どもも含めて割り出した数字で、会社員らが入る「被用者保険」では扶養する子どもなどの分も「被保険者」が支払うことになり、収入に応じて月額1,000円を超える人もいます。政府には負担を真正面から説明する姿勢が見られませんでした。
借金頼みの懸念と不透明な予算倍増の財源
政府は「異次元の少子化対策」の財源として、社会保障の歳出改革などにより、支援金制度の導入による1兆円分を含めて計2.1兆円を捻出するとしました。これには、国民に「痛みを伴う改革」も含まれます。
政府が示した2028年度に向けた検討項目には、医療・介護の3割負担の対象拡大や高額療養費の患者負担額の見直しなどが含まれます。しかし、これらの改革が思惑通りに進むかは不透明です。例えば、介護保険の負担増はこれまでも議論に上がってきましたが、実施が先延ばしされてきました。
財源の一部を国債(借金)に頼っていることも、将来の国民負担につながりかねません。児童手当の拡充などは今年度から始まりますが、支援金の徴収が始まるのは2026年度からです。支援金が1兆円に達する2028年度までは、足りない財源を「つなぎ国債」で賄います。つなぎ国債の発行額は2028年度までに計1兆?2兆円になる見込みです。支援金を原資に2051年度までに返済を終える計画を立てていますが、今後は国債の利払い費もかさむことが想定されます。
問題はその先にもあります。政府は2030年代初頭までに、国の予算または子ども1人あたりで見た国の予算を倍増させることを目指しています。しかし、その財源は明らかにされていません。予算倍増のために、医療や介護など社会保障にかかる歳出をさらに削るのであれば、さらなる痛みを伴うことは避けられません。